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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)2393号 判決 1980年10月29日

控訴人

生貝昇

右訴訟代理人

山野一郎

外二名

被控訴人

蛯原久子

大友千春

右両名訴訟代理人

貝塚次郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の当審における新請求をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

被控訴人両名は各自控訴人に対し金二二二〇万円及びこれに対する被控訴人蛯原については昭和五二年四月二三日から、被控訴人大友については同年同月二二日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人蛯原は控訴人に対し金二二四五万円に対する昭和五〇年七月一八日から同五二年四月二二日まで年三割、同月二三日から支払いずみまで年二割五分の割合による金員を支払え。(当審における新請求)

被控訴人大友は控訴人に対し金二二四五万円に対する昭和五〇年七月一八日から同年四月二一日まで年三割、同月二三日から支払いずみまで年二割五分の割合による各金員を支払え。(当審における新請求)

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言

二  被控訴人両名

主文同旨の判決

第二  主張

原判決事実摘示中該当部分を引用する。ただし次のとおりその一部を改め、または付加する。

一  原判決四枚目裏四行目に「交付し、」とあるのを、「利息年一割、遅延損害金年三割と定めて貸渡し、」と改める。

二  同七行目「なされた。」の次に「もつとも控訴人が被控訴人蛯原に、被控訴人らが保証書を作成するに当つて、あらためて登記義務者本人について、登記申請意思の有無を調査することを依頼した事実はない。」と加入する。

三  同六枚目裏八行目「本件土地の」から同一〇行目「蒙つた。」までを削り、その代りに「栗原及び藤岡に金三七〇〇万円を騙取され同額の損害を蒙つた。」を加入する。

四  同六枚目裏末行と同七枚目表初行の間に次のとおり加入する。

「なお本件三七〇〇万円の貸付に際しては、期限後損害金を三割とする約定があつたから、控訴人は右元金相当の損害を蒙るとともに、これに対する不法行為の日以降年三割の得べかりし利益を喪失したものである。」

五  同七枚目表三行目から八行目までを「6 よつて控訴人は被控訴人蛯原、同大友に対し民法第七〇九条に基づく損害賠償として各自金二二四五万円及びこれに対する不法行為の日である昭和五〇年七月一八日以隆支払ずみまで前記年三割の割合による遅延損害金の支払いを求める。」と改める。

六  同裏九行目「抹消されたこと」の次に、「、被控訴人蛯原が控訴人から登記義務者について登記申請意思の有無の調査の依頼を受けなかつたこと」を加入する。

第三  証拠<省略>

理由

一本件の事実関係についての当裁判所の認定は、原判決中に示された原審のそれと同一であるから、これ(原判決二四枚目表二行目から二七枚目裏末行まで)を引用する。ただし原判決二四枚目裏二行目と三行目の間に「その際控訴人から被控訴人蛯原に対し、登記義務者の意思の確認についてのあらためての調査の依頼がなされなかつたこと、」を加入する。

二およそ登記義務者について確実な知識を有していない者は、不動産登記法第四四条の保証書を作成してはならず、あるいは作成前に相当の調査をなすべき公法上の注意義務の存在することは同法第一五八条に照らして明らかであり、又右保証書が不動産上の権利の変動の登記のための手段であることからすれば、右権利変動の直接の当事者はもとより、これによつて影響を受けるべき者に対し、特段の契約をまつまでもなく、私法上、善良なる管理者の立場において、同様の注意義務を負担するものであることは当然であるが、右私法上の注意義務は、公法上の注意義務と異なり、当事者間の合意によつて解除せられうるものであることもまたいうを俟たない。そこで右確定された事実関係からすると、控訴人は、本件保証書の作成をまつまでもなく、自称中島及び訴外藤岡の説明により、自称中島が訴外誠市の子であり、同人から本件土地を譲渡担保に供して控訴人から金融を得るについての権限を委ねられていると信じていたものであり、さればこそ自称中島と共同して被控訴人蛯原に対し保証書による本件登記申請手続を依頼し、さらに被控訴人蛯原により本件登記申請書類が法務局に提出されたに過ぎず、いまだ右申請が受付とならない段階で、自称中島に対し本件金三七〇〇万円を貸付名下に交付したものであることが推認できるのであつて、以上の事実関係とくに、自称中島と控訴人の間で抵当権設定の話が譲渡担保ないし買戻特約付売買の話に変つたのを聞き、被控訴人が自称中島に訴外誠市の意思を確認するよう忠告し、控訴人もこれを聞いていたとの事実に徴すると、被控訴人蛯原及び同被控訴人から更に保証人となることを依頼された被控訴人大友はいずれも訴外中島及び控訴人の両名から黙示的に前述の注意義務(保証書作成を拒否すべき又は作成に先だつて登記義務者本人の登記申請意思の有無を実際に調査すべき義務)を解除されていたと推認するのが相当であつて、右推認を覆すに足りる証拠はない。(控訴人が訴外藤岡らが保証書で登記して欲しい旨被控訴人蛯原に依頼するのを聞き、同被控訴人に「大丈夫か」と聞いたとの事実は原判決も認定しているとおりであるが、右は「権利証がなくても登記手続は可能か」との意味にすぎないことは前後の経緯からして明らかである。)

してみると、被控訴人らが本件保証書作成を拒否せず、あるいは、作成前に本人について登記申請意思の有無を相当の方法で調査しなかつたことをもつて、控訴人に対する過失ということはできない。

三それ故、被控訴人らに対する控訴人の本件請求はその余の点を案ずるまでもなく失当でこれを棄却すべきところ、原判決中請求棄却部分は結論において正当であるから、本件控訴はこれを棄却することとし、当審における新請求をも棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(石川義夫 寺澤光子 原島克己)

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